懐古編(仮)

  第十二話

「で、ここへは何しに?
 まさか、墓参りとでも言うんじゃないだろうな?」

「墓・・・か。
 それも悪くない・・・」

侍は小さく独り言のように呟いた。

「え?」
「いや、何でもない。
 そう・・・、
 ちょっとした気まぐれで墓参りでもと思ってな」
「何だ?心境の変化か?何か報告でもあるのか?」

冬磨は彼の目を覗き込んだ。

「冬磨・・・。
 お前は、すぐそうやって俺の真意を確かめようとする」
彼は苦笑した。
「ああっ?悪い悪い!分かっちまったか!」
冬磨はバツが悪そうに頭を掻いた。

「まあ、いい。
 せっかくこうして久しぶりに会えたことだし、
 どうだ?夜一緒に酒でも交わさないか?」

「冬磨・・・悪いが・・・」

彼の次の言葉を冬磨が遮った。

「おっと!待て。
 いいか?断るなよ?
 一晩くらい付き合っても悪くはない・・・だろ?」

そう言って冬磨は彼の腕をグッと掴んだ。
ハッとして、侍は冬磨の顔を見る。
目の前にあるのは、有無を言わさぬような冬磨の顔だった。

「冬磨?」
「じゃあ、戌の上刻に俺の屋敷へ来い」
そう言うと冬磨は立ち上がった。

「いいか?あきのすけ。
 忘れるなよ?
 すっぽかしたらタダじゃおかないからな!」

彼の返事を待たずに冬磨はそう言い残し、茶屋を去った。
後に残された侍は、溜め息を吐く。

「全くアイツは・・・。
 昔から強引なところは少しも変わっていない」

しかし、言葉とは裏腹に、
その声は予想外の展開を楽しんでるようでもあった。

そう、
何もかも変わってしまった中で、
変わらないのは冬磨だけかもしれぬと。




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