「で、ここへは何しに? まさか、墓参りとでも言うんじゃないだろうな?」
「墓・・・か。 それも悪くない・・・」
侍は小さく独り言のように呟いた。
「え?」 「いや、何でもない。 そう・・・、 ちょっとした気まぐれで墓参りでもと思ってな」 「何だ?心境の変化か?何か報告でもあるのか?」
冬磨は彼の目を覗き込んだ。
「冬磨・・・。 お前は、すぐそうやって俺の真意を確かめようとする」 彼は苦笑した。 「ああっ?悪い悪い!分かっちまったか!」 冬磨はバツが悪そうに頭を掻いた。
「まあ、いい。 せっかくこうして久しぶりに会えたことだし、 どうだ?夜一緒に酒でも交わさないか?」
「冬磨・・・悪いが・・・」
彼の次の言葉を冬磨が遮った。
「おっと!待て。 いいか?断るなよ? 一晩くらい付き合っても悪くはない・・・だろ?」
そう言って冬磨は彼の腕をグッと掴んだ。 ハッとして、侍は冬磨の顔を見る。 目の前にあるのは、有無を言わさぬような冬磨の顔だった。
「冬磨?」 「じゃあ、戌の上刻に俺の屋敷へ来い」 そう言うと冬磨は立ち上がった。
「いいか?あきのすけ。 忘れるなよ? すっぽかしたらタダじゃおかないからな!」
彼の返事を待たずに冬磨はそう言い残し、茶屋を去った。 後に残された侍は、溜め息を吐く。
「全くアイツは・・・。 昔から強引なところは少しも変わっていない」
しかし、言葉とは裏腹に、 その声は予想外の展開を楽しんでるようでもあった。
そう、 何もかも変わってしまった中で、 変わらないのは冬磨だけかもしれぬと。 |