懐古編(仮)

  第二話

ヒタヒタと冷たく、
真っ暗な闇の中で侍は歩き続けていた。

この場所は見覚えがある・・・。
そう思った。

そして、ふと自分の胸元を見ると、
心臓近くまでパックリと切り裂かれた傷口からは、
夜屍斗の匂いが漂ってることに気付く。

吐き気のする匂いだった。
そして、その匂いは遙か昔の記憶へと彼を導いた。

夜屍斗ともう一人の姿。

それは何かの儀式のようだった。
その人物は夜屍斗から血杯を受け取り、
一気にそれを飲み干す。

夜屍斗は満足げな表情を浮かべている。

”あれは・・・?

似ている。
だが、髪の色は黒い。
その姿をもう一度目を凝らして見る。

そしてギクリとした。
”まさか・・・?”

彼は自分の目を疑う。
鼓動が緊張のため早鐘を打った。

ゆっくりと彼はその人物に近づく。

”血の・・・契・・約・・・か?”

そう思った瞬間、
彼のこめかみがズキズキと痛んだ。

俺の血の中にアイツが・・・?!

彼は、愕然とする。
だが、紛れもなくそこにいるのは自分に間違いなかった。

私は夜屍斗の血杯を飲み、闇へと堕ちて行ったのか・・・
自分の中に眠る狂気。
それが夜屍斗からの贈り物だったとは。

徐々に鮮明になってくるその記憶。

人の世に絶望した俺は、
夜屍斗に誘われるままそれに従った。
そう、人への激しい嫌悪感と共に。
自分自身も含め、全て滅んでしまえばいい、と。




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