町外れまで来ると、ルトは道しるべの椿の所へ行くと言い、 次の日まで侍とは別行動を取ることになった。
屋敷へと通じる小道を一人歩きながら、 彼の心には取り留めのない思いが浮かんでは消える。 今更思い返しても仕方のないことまでも。
あの日まで、何度この道を行き来したことだろう。
自分と私を残し、家を去った母を父は許せず、 それどころか、母の面影を色濃く残す私に冷たかった。 しかし、継母となった雪は、 いつも私のことを気にかけてくれた。
そう、確か・・・いつだったか着替えが必要だろうと、 自分が縫った着物を持たしてくれたこともあった。 父の子を妊んだ時は、より一層気にかけてくれた。 そんな人だった。
意地を張らずに、もう少しまめに足を運べば良かったと 彼は後悔する。
前方に朽ち果てた門が見え始めた。
人伝てに聞いた話では、 親戚縁者が金目の物を持ち出した以後は、 取り壊されることもなく、 ひっそりと佇んでるということだった。
長年の放置により、門の周りを囲っていた石垣は崩れ、 あの頃の様子は一つも残ってはいなかった。
こんな様子にしてしまったのは、自分のせいだ。 あの頃が悔やまれる。 どうして気づかなかったのかと。
自分はそれほどまでに子供だったのだ。 侍の表情が苦悶の色に染まる。
その時だった。 バタバタとこちらへ駆けて来る足音が聞こえてきた。
その足音に、侍は背を向けたまま、 反射的に刀の柄に手を掛ける。
「おお!?」 突然、その足音の主が彼に声を掛けた。
「やはり・・・! やはりあきのすけではないか!」
微かに聞き覚えのあるその声は・・・
彼は振り向いた。 そこには、かつて知った面影を残す男が立っていた。
「冬磨・・・か?」 「そうだ、俺だ!」
にこにこと笑い掛け、男は彼に近づく。 懐かしいその顔は紛れもなく、 幼なじみの冬磨だったのである。 |