懐古編(仮)

  第十話

町外れまで来ると、ルトは道しるべの椿の所へ行くと言い、
次の日まで侍とは別行動を取ることになった。

屋敷へと通じる小道を一人歩きながら、
彼の心には取り留めのない思いが浮かんでは消える。
今更思い返しても仕方のないことまでも。


あの日まで、何度この道を行き来したことだろう。

自分と私を残し、家を去った母を父は許せず、
それどころか、母の面影を色濃く残す私に冷たかった。
しかし、継母となった雪は、
いつも私のことを気にかけてくれた。

そう、確か・・・いつだったか着替えが必要だろうと、
自分が縫った着物を持たしてくれたこともあった。
父の子を妊んだ時は、より一層気にかけてくれた。
そんな人だった。

意地を張らずに、もう少しまめに足を運べば良かったと
彼は後悔する。


前方に朽ち果てた門が見え始めた。

人伝てに聞いた話では、
親戚縁者が金目の物を持ち出した以後は、
取り壊されることもなく、
ひっそりと佇んでるということだった。

長年の放置により、門の周りを囲っていた石垣は崩れ、
あの頃の様子は一つも残ってはいなかった。

こんな様子にしてしまったのは、自分のせいだ。
あの頃が悔やまれる。
どうして気づかなかったのかと。

自分はそれほどまでに子供だったのだ。
侍の表情が苦悶の色に染まる。

その時だった。
バタバタとこちらへ駆けて来る足音が聞こえてきた。

その足音に、侍は背を向けたまま、
反射的に刀の柄に手を掛ける。

「おお!?」
突然、その足音の主が彼に声を掛けた。

「やはり・・・!
 やはりあきのすけではないか!」

微かに聞き覚えのあるその声は・・・

彼は振り向いた。
そこには、かつて知った面影を残す男が立っていた。

「冬磨・・・か?」
「そうだ、俺だ!」

にこにこと笑い掛け、男は彼に近づく。
懐かしいその顔は紛れもなく、
幼なじみの冬磨だったのである。




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