庵を出て数ヶ月。 道中は、不思議なほど至って平穏な日々だった。
時折、残してきた雫とラグのことが気に掛かったが、 道しるべ達の報告で、何事もなく過ごしていると聞いていた。
「ねぇ!侍。見て見てでしー!」 ルトの声で侍はハッとした。
「あれは・・・海でしよねっ?」
その言葉に顔を上げて前方を見ると、 真っ青な海が眼下に広がっていた。 キラキラと海面は光り、海は穏やかな表情を見せている。
「ルト、海は初めてか?」 「そうでしよー♪」 ルトは興奮した表情をして、初めて見る海を見つめる。
「ねね?侍。 海のすぐ近くまで行って見てもいいでしか?」 「ああ・・・」 「じゃ、ちょっと先に行ってるでしよ!」 「分かった」 ルトはそういうな否や、一目散に海に向かって羽ばたく。
そんな様子を侍は目を細めて見ていたが、 その姿が視界から遠ざかると、険しい表情を浮かべた。
”ここからもうさほど遠くない・・・”
苦い思い出と共に彼は故郷へと戻ってきた。 もう訪れることもないだろうと思っていた場所へ。 己の過去と向き合うために。
彼は愛馬の背を軽く叩く。 すると愛馬はルトの行った方角へと、 ゆっくりとまた歩き始める。
自分の記憶に間違いなければ、ヤツはきっと・・・ |