懐古編(仮)

  第八話

庵を出て数ヶ月。
道中は、不思議なほど至って平穏な日々だった。

時折、残してきた雫とラグのことが気に掛かったが、
道しるべ達の報告で、何事もなく過ごしていると聞いていた。

「ねぇ!侍。見て見てでしー!」
ルトの声で侍はハッとした。


「あれは・・・海でしよねっ?」

その言葉に顔を上げて前方を見ると、
真っ青な海が眼下に広がっていた。
キラキラと海面は光り、海は穏やかな表情を見せている。

「ルト、海は初めてか?」
「そうでしよー♪」
ルトは興奮した表情をして、初めて見る海を見つめる。

「ねね?侍。
 海のすぐ近くまで行って見てもいいでしか?」
「ああ・・・」
「じゃ、ちょっと先に行ってるでしよ!」
「分かった」
ルトはそういうな否や、一目散に海に向かって羽ばたく。

そんな様子を侍は目を細めて見ていたが、
その姿が視界から遠ざかると、険しい表情を浮かべた。

”ここからもうさほど遠くない・・・”

苦い思い出と共に彼は故郷へと戻ってきた。
もう訪れることもないだろうと思っていた場所へ。
己の過去と向き合うために。

彼は愛馬の背を軽く叩く。
すると愛馬はルトの行った方角へと、
ゆっくりとまた歩き始める。

自分の記憶に間違いなければ、ヤツはきっと・・・




BACK 1
NEXT 1

MOMO'S WEB DESIGN
mo_news Ver2.00