懐古編(仮)

  第六話

それから数日後。

旅支度を整えた侍の姿があった。
雫は不安げな表情で彼を見つめていたが、
いってらっしゃいませとだけ彼に伝えた。

侍はラグに、
”なるべく雫の側を離れるな”と、固く言い聞かせた。
ラグは、一人雫と共に残るのを不満げにしていたが、
前回の、
自分の取った行動に責任を感じていたのであろうか、
「分かったでちよ・・・」
と小さく呟く。
その言葉を聞き、侍はラグの頭を優しく撫でる。

ルトはというと、
少し離れた木の上から陽気な声で歌っている。


侍は一歩踏み出そうとするが、
ふと思い付いたように雫に近づき、そっと抱き寄せた。

侍は彼女の耳元で呟いた。
”心配ない。必ず戻る”と。

そして、更に小さな声で雫に何か言った。
それに応えるかのように、彼女はコクリと頷く。

”さ、行くぞ”と彼は、木の上のルトに目で訴えた。
ルトはそれに気付くと、ちょこんと彼の肩に乗る。

「では、行って参る」

そして、遠ざかる侍の後ろ姿を、
雫はいつまでもいつまでも見送るのだった。




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