懐古編(仮)

  第五話

その瞬間だった。
ウトウトとしていたルトの赤い瞳がパッと輝いた。
一目散に侍の部屋へと目指し、飛んで行く。

「侍ッ!!」

引き戸の向こう側からルトが叫んだ。
侍はその声に驚き、刀を鞘にしまい、引き戸を開ける。
すると、抱きつくようにして、
ルトが侍の胸に飛び込んできた。

「侍ーーーーーッ!!!」

その目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。

「ルト・・・」
侍はそっと手の中にルトを入れると、
頭を愛おしそうに撫でた。

「さむっ、侍ぃぃぃ。。。。」
「ルト・・・お前、何で分かった?」
侍の目が笑っている。

「その・・・その刀が・・・」
「え?」
「その刀がボクに教えてくれたでしぃ〜。。。」
「この刀がお前に?」
「でしよー!」
「そうか・・・」
侍は微かに笑う。

ルトの泣きじゃくる小さな頭を優しく撫でながら、
侍は思った。

霧王は・・・
知っていたのかもしれぬ。
私に足りない物を。
夜屍斗との戦いの中で、己を思い出せと。
それは逆に、夜屍斗の方が知らぬことではなかったのか。

その時、
ふと侍の頭の中に浮かび上がったのは一つの名前。

ああ・・・
そうか!
やっと思い出した。

あの小鳥は・・・キリ。
そう、キリだ!
私の心を救ってくれたのはキリだ。
キリは霧王へと姿を変え、いつの世も私の側にいる。


そしてこのルトは・・・
愛らしきこの小さな友は・・・

侍はルトを見つめる。
ふとルトはその瞳に気付き、小首を傾げる。
侍はそれに応えるようにただ微笑むだけだった。




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