その瞬間だった。 ウトウトとしていたルトの赤い瞳がパッと輝いた。 一目散に侍の部屋へと目指し、飛んで行く。
「侍ッ!!」
引き戸の向こう側からルトが叫んだ。 侍はその声に驚き、刀を鞘にしまい、引き戸を開ける。 すると、抱きつくようにして、 ルトが侍の胸に飛び込んできた。
「侍ーーーーーッ!!!」
その目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ルト・・・」 侍はそっと手の中にルトを入れると、 頭を愛おしそうに撫でた。
「さむっ、侍ぃぃぃ。。。。」 「ルト・・・お前、何で分かった?」 侍の目が笑っている。
「その・・・その刀が・・・」 「え?」 「その刀がボクに教えてくれたでしぃ〜。。。」 「この刀がお前に?」 「でしよー!」 「そうか・・・」 侍は微かに笑う。
ルトの泣きじゃくる小さな頭を優しく撫でながら、 侍は思った。
霧王は・・・ 知っていたのかもしれぬ。 私に足りない物を。 夜屍斗との戦いの中で、己を思い出せと。 それは逆に、夜屍斗の方が知らぬことではなかったのか。
その時、 ふと侍の頭の中に浮かび上がったのは一つの名前。
ああ・・・ そうか! やっと思い出した。
あの小鳥は・・・キリ。 そう、キリだ! 私の心を救ってくれたのはキリだ。 キリは霧王へと姿を変え、いつの世も私の側にいる。
そしてこのルトは・・・ 愛らしきこの小さな友は・・・
侍はルトを見つめる。 ふとルトはその瞳に気付き、小首を傾げる。 侍はそれに応えるようにただ微笑むだけだった。 |