懐古編(仮)

  第二十八話

「あんた、今一つ警戒心がやっぱり足りないんじゃない?」
クックックと笑いを漏らす女がいた。

胡蝶だった。

「お前は・・・ッ!」
「あの時はどうも・・・かしら?」

侍は後ろ手を結ばれ、床に転がされていた。
頭はクラクラし、まだ目が霞む。

胡蝶は妖しい笑いを漏らす。
そして、いきなり鋭い爪先を侍の身体に向け、
一気に着物諸共皮膚を切り裂いた。

「うッ?!」

切り裂かれた着物の隙間から、見る間に血が滲む。
更に胡蝶は容赦なく次の一手を加える。

「ぐッ!!!」

「どう?この爪は?
 お気に召したかしら?
 ああ、でも夜屍斗様の爪よりは
 物足りないでしょうけど・・・」

胡蝶は自分の爪をペロリと舐めると、
残忍そうな笑みを浮かべた。

「あんたを目の前にして、ほどほどになんて・・・
 夜屍斗様もお人が悪いったら。
 それじゃあ、アタシの腹の虫が治まらないのを
 知っている癖に・・・」

胡蝶は侍の頬をついと爪でなぞる。
すると、頬からもうっすらと血が滲む。

「ああ、そうそう!忘れる所だったわ。
 あの可愛い坊ちゃんも見つけたら、
 手厚い歓迎をしてあげないとねぇ?」

クスクスと胡蝶は笑った。
そして、もう片方の腕で侍の肩を掴むと、

「それに・・・あの巫女・・・ッ!
 思い出しても忌々しいッ!!

 だから・・・
 巫女の分の礼もひとまずあんたに返して上げなくちゃ・・・」

そう言い、彼の腹に膝で蹴りを入れた。

「ッ・・・!!」
ゲホゲホと血を吐く侍。

胡蝶は歪んだ笑いを浮かべながら、
執拗に何度も暴行を加え続ける。
侍は朦朧とする意識の中でじっと耐え、ルトの身を案じた。

”ルト・・・どこだ?!
 袂に入ったのではないのか?
 ならば・・・どこへ・・・・?”

しばらくすると、
その姿を見て、胡蝶は軽く溜め息を吐き、苛立った。

「ああ・・・!
 なによ!!苛々させる男だねッ!!!
 ハッ!何だか馬鹿馬鹿しくなってきたわ。
 あんたなんかより巫女の苦しむ姿の方が、
 よほど楽しみ甲斐があるわね、きっと。

 お前達!
 後は死なない程度に可愛がってやりな!」

そう吐き捨てると、胡蝶は部屋から立ち去る。

その瞬間。
天井に張り付いていた、
無数の黒い影が彼の周りを取り囲んだ。
その容赦のない暴行から、
侍はただ耐え抜くしか術はなかったのである。




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