懐古編(仮)

  第二十五話

シン・・・と静まり返ったこの空間には、
自分とルトしかいない。
ひんやりとした空気が彼にまとわりつく。
闇に目が慣れるまで、慎重に進まねばならぬ。

と、その時だった。

ドクン!
と彼の刀が脈を打った。
彼が瞬時に刀へと手を掛けた瞬間、
ゆらり、と壁が蠢いたような気がした。

これはッ?!

凄まじい数の蛾だった。
その蛾が侍達目掛けて一斉に羽ばたいたのである。

振り払いながら、侍の目に映った物は、
壁という壁に張り付く、人の手ほどの大きさの黒い蛾。

侍達が歩く両脇、天井の壁は、
ぎっしりとその蛾で埋め尽くされ、
それはまるで壁の模様のようにも見えていたのだった。

その蛾は、温かい物に群がる性質を持っており、
突如入って来た侵入者がもたらす、
僅かな温度変化に反応したようであった。


侍はルトを逃がそうと叫ぶ。
だがしかし、
蛾の羽ばたく音で瞬く間にその声はかき消される。

二手に分かれた蛾は人の形を作り、侍達の前に立ちはだかると、
あっという間に侍達を飲み込んだのである。




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