シン・・・と静まり返ったこの空間には、 自分とルトしかいない。 ひんやりとした空気が彼にまとわりつく。 闇に目が慣れるまで、慎重に進まねばならぬ。
と、その時だった。
ドクン! と彼の刀が脈を打った。 彼が瞬時に刀へと手を掛けた瞬間、 ゆらり、と壁が蠢いたような気がした。
これはッ?!
凄まじい数の蛾だった。 その蛾が侍達目掛けて一斉に羽ばたいたのである。
振り払いながら、侍の目に映った物は、 壁という壁に張り付く、人の手ほどの大きさの黒い蛾。
侍達が歩く両脇、天井の壁は、 ぎっしりとその蛾で埋め尽くされ、 それはまるで壁の模様のようにも見えていたのだった。
その蛾は、温かい物に群がる性質を持っており、 突如入って来た侵入者がもたらす、 僅かな温度変化に反応したようであった。
侍はルトを逃がそうと叫ぶ。 だがしかし、 蛾の羽ばたく音で瞬く間にその声はかき消される。
二手に分かれた蛾は人の形を作り、侍達の前に立ちはだかると、 あっという間に侍達を飲み込んだのである。 |