懐古編(仮)

  第二十三話

それは屋敷の裏手にある小高い丘で、
幼い頃偶然に見つけた洞穴だった。

入り口は巧妙に木で隠すように覆われ、
通り抜けられぬよう、
大きな岩で塞いであったようにも見えた。
だが、長い間風雨に晒された岩は苔生し、浸食され、脆くなり、
子供がやっと通れるくらいの小さな亀裂が
出来ていたのであった。

俺は一人になりたい時、よくこの丘に来ていた。
ある日ふと途中に、
何か人為的な違和感のある場所が目に付いた。

それがここだったのだ。

恐る恐る小さな身体をくねらせ、中に入り込んでみると、
意外にも大人二人が通れるくらいの広さの奥に、
何かを封印したような、そんな形跡がある場所に出た。

その中心には円陣があり、緻密な羽の文様が描かれていた。

”これは一体何だろう?”

とその時思った。

そして、その中心に近づこうとすると、
なぜか背筋がゾワゾワとし、
言い知れぬ不安が体中を駆け巡る。
それが一体何なのか、
父にもそのことを聞けぬまま、あの事件が起こり、
いつの間にか忘れていた。

そうだ。
今ならハッキリと思い出すことができる。

あれこそがまさしく、夜屍斗を封印した場所であったのだ。
恐らく父上はそのことを何も知らなかったに違いない。
だが、母上は知っていたのだろう。
だからこそ俺の中に運命を見た時恐れ、
兄上を連れ、この地を離れたのではないか。

私がこの地で生まれ育った訳も今なら頷ける。
この地とはそういう因縁で結ばれているのだ。


侍は納屋にあった錆びた斧を手に、振りかぶる。

ピシリと音がして、いとも簡単に岩は崩れ落ちた。
バラバラと岩は砕け、ポッカリと洞穴は姿を現す。

それはさながらこの時を待っていたかのように。
彼を誘い込むように。




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