翌朝。 まだ朝靄が立ち込める中、侍は冬磨の屋敷を後にする。
友は黙って、いつまでも彼の姿を見送っている。 その視線を感じながらも、決して侍は振り返らなかった。
その小さくなる後ろ姿を見つめ、冬磨は心の中で小さく呟く。
”俺が忘れても・・・ それでもやっぱりいつかまた会おう・・・ いや、会いに来い。あきのすけ! その時、俺は必ずお前を思い出すからな・・・”
無二の親友となる筈だった者との辛い別れを胸に、 侍は目的地を目指す。
あの場所。 あの場所こそが、始まりの場所。 俺と夜屍斗を繋ぐ場所だ。
彼はルトを呼ぶために、懐から文鳥笛を取り出し、短く吹く。
しばらくすると、ルトが侍の元へと飛んで来た。 そして、ルトはそのままバサリと彼の肩の上に乗る。
「ふあぁぁ〜。 何だか早いでしねぇ?もういいんでしかぁ〜?」
と、ルトは眠そうに言った。 彼は無表情のまま微かに頷く。
「・・・ん? あれっ?? えと・・・? どうかしたんでしか・・・?」
侍の様子に少しおかしいとルトは思い、尋ねる。 だが、彼はその問いかけには答えなかった。
「ルト・・・」 「はいでし?」 「昨夜はどうしてた?」 「えっとでしね、 道しるべの椿さんの所にお世話になったでしよ」 「椿か・・・」 「そうでし。 あ、侍にもよろしく伝えて欲しいと言われたでし!」 「そうか」 「あ、あと雫おねぃちゃんの様子も聞いて来たでしよ」 「そうか・・・」
「えっ? さ、侍・・・???」
雫の話を持ち出しても、関心がなさそうな彼の様子に、 ルトは驚き、少し困り、黙ってしまった。 てっきり聞きたいものだとばかり思っていたからだ。
何かあったのだろうかと思いつつも、 それならば、また後で話せばいいや、 とまだ寝ぼけ半分のルトは考え、 彼の肩の上でもう少し寝させてもらおうと、 うずくまるのであった。 |