懐古編(仮)

  第二十二話

翌朝。
まだ朝靄が立ち込める中、侍は冬磨の屋敷を後にする。

友は黙って、いつまでも彼の姿を見送っている。
その視線を感じながらも、決して侍は振り返らなかった。

その小さくなる後ろ姿を見つめ、冬磨は心の中で小さく呟く。

”俺が忘れても・・・
 それでもやっぱりいつかまた会おう・・・
 いや、会いに来い。あきのすけ!
 その時、俺は必ずお前を思い出すからな・・・”



無二の親友となる筈だった者との辛い別れを胸に、
侍は目的地を目指す。

あの場所。
あの場所こそが、始まりの場所。
俺と夜屍斗を繋ぐ場所だ。

彼はルトを呼ぶために、懐から文鳥笛を取り出し、短く吹く。

しばらくすると、ルトが侍の元へと飛んで来た。
そして、ルトはそのままバサリと彼の肩の上に乗る。

「ふあぁぁ〜。
 何だか早いでしねぇ?もういいんでしかぁ〜?」

と、ルトは眠そうに言った。
彼は無表情のまま微かに頷く。

「・・・ん?
 あれっ??
 えと・・・?
 どうかしたんでしか・・・?」

侍の様子に少しおかしいとルトは思い、尋ねる。
だが、彼はその問いかけには答えなかった。

「ルト・・・」
「はいでし?」
「昨夜はどうしてた?」
「えっとでしね、
 道しるべの椿さんの所にお世話になったでしよ」
「椿か・・・」
「そうでし。
 あ、侍にもよろしく伝えて欲しいと言われたでし!」
「そうか」
「あ、あと雫おねぃちゃんの様子も聞いて来たでしよ」
「そうか・・・」

「えっ?
 さ、侍・・・???」

雫の話を持ち出しても、関心がなさそうな彼の様子に、
ルトは驚き、少し困り、黙ってしまった。
てっきり聞きたいものだとばかり思っていたからだ。

何かあったのだろうかと思いつつも、
それならば、また後で話せばいいや、
とまだ寝ぼけ半分のルトは考え、
彼の肩の上でもう少し寝させてもらおうと、
うずくまるのであった。




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