懐古編(仮)

  第三話

ある日俺は一羽の鳥を助けた。
名も知らぬ白い小鳥・・・。

それは単なる気まぐれからだった。
しかし、それが俺の運命とヤツの運命を
大きく分けることになろうとは。
あの時、夜屍斗が言った”霧王も知らぬこと”とは、
このことだった。

俺は小鳥が持つその心に癒され、闇から解放された。
そして夜屍斗を裏切ったのだ。
怒り狂った夜屍斗は、それ故その鳥=文鳥を執拗に狙い、
自由を奪い、復讐の手段に選んだ。

あの時代の俺はその文鳥と共に死んだ。
そして、俺を転生させたのは、その鳥。
俺はヤツと戦うために生まれ変わり、鳥は霧王となった。

あの時、夜屍斗が簡単に俺を殺さずに生かしたのは、
そういう理由だったのだ。

なんと忌まわしい前世であることか!
俺はその記憶を自ら封印してしまっていた。
数千年もの間・・・。



と、その時。
そろりと引き戸を開ける音がした。
雫だった。

彼の傷口の布を取り替えようと、彼女は彼の胸に手を伸ばす。
あっと息を飲む雫。

「あきの・・・?!」

雫が気付かぬほど、
それほど彼の息遣いは小さかったのである。

「気付かれたんですね?
 全然私、気付か・・・」

雫はそう言いかけて、ハッとする。

彼は障子戸の向こうに顔を背けたままであり、
雫の方へと顔を向けることはなかったからである。
何か様子が違うことに雫は戸惑った。

彼はポツリと言った。

「・・・済まない。もうしばらく一人にしてはくれまいか」
その声は深く沈んでいる。

「は、はい・・・。
 では、何か用事がありましたら、お呼び下さいませ」

そう言うと雫は立ち上がり、部屋の外へと戻ろうとするが、
今一度振り向き、心配そうな眼差しを送る。

だが、彼は一度も振り向かない。
その表情すらも分からない。

部屋を後にした雫の顔が曇った。

闇に心を奪われていた時でさえ、
何か感じるものは確かにあったというのに。
一体どうしたというのだろう?
こんなことは初めてだった。




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