懐古編(仮)

  第十九話

「俺さ・・・
 いつか必ずお前と、
 腹を割って話せる日が来ると信じてたよ。
 
 俺が親兄弟の替わりにコイツを支えてやろうって・・・、
 勝手に決めててさ。
 同い年だけど、兄貴になってやろうってさ。
 だってお前、本当は子供っぽくて・・・
 それに、
 大人になったら絶対一緒に酒を酌み交そうって・・・」

冬磨の声が震えた。
侍は俯き、黙ったままだ。

「あきのすけ・・・
 一つ聞いていいか?
 お前のことを知ってるヤツが、
 もう誰もこの町にはおらん。
 誰に聞いても、そんなヤツいたか?くらいのもんさ。
 なぜだ・・・?
 お父上だって、立派なお役目付だったはずなのに・・・
 それが俺には分からん。
 お前が姿を消した理由とそれは何か関係があるのか?」

「人は・・・
 奇異なものは排除しようとするものだ。
 ましてや、何かあればその記憶も消したいと・・・
 そして、消してしまえるのは幸せなことだ・・・」

「それだけか?」
「・・・・・・。」

侍は何かを決めたかのように、スッと顔を上げた。
そして、冬磨の顔を見据えた。

「冬磨。俺のことは忘れろ。
 皆と同じように。
 俺のことは死んだと思え!」

「な、何を言う?!
 やっと心を開いてくれたかと思ったら、なぜ!?
 なぜお前はそんなことを言う!」
「さっきも言った筈だ。
 俺にはやらねばならぬことがある。
 冬磨、お前はお前の幸せを守れ!」

”唯一の友であるお前の幸せのためにも、俺は・・・”

彼は心の中で、そう付け加えた。

「・・・それが、
 それがお前の願いか?」

声を振り絞って冬磨が聞いた。

「俺にお前との思い出も残してはならぬ・・・と?」
「そうだ。今宵限りで」

冷たく突き放すような声で侍は言った。

「冬磨の思いは受け取った。
 だが、俺達はやはり今日会うべきではなかった」




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