「俺さ・・・ いつか必ずお前と、 腹を割って話せる日が来ると信じてたよ。 俺が親兄弟の替わりにコイツを支えてやろうって・・・、 勝手に決めててさ。 同い年だけど、兄貴になってやろうってさ。 だってお前、本当は子供っぽくて・・・ それに、 大人になったら絶対一緒に酒を酌み交そうって・・・」
冬磨の声が震えた。 侍は俯き、黙ったままだ。
「あきのすけ・・・ 一つ聞いていいか? お前のことを知ってるヤツが、 もう誰もこの町にはおらん。 誰に聞いても、そんなヤツいたか?くらいのもんさ。 なぜだ・・・? お父上だって、立派なお役目付だったはずなのに・・・ それが俺には分からん。 お前が姿を消した理由とそれは何か関係があるのか?」
「人は・・・ 奇異なものは排除しようとするものだ。 ましてや、何かあればその記憶も消したいと・・・ そして、消してしまえるのは幸せなことだ・・・」
「それだけか?」 「・・・・・・。」
侍は何かを決めたかのように、スッと顔を上げた。 そして、冬磨の顔を見据えた。
「冬磨。俺のことは忘れろ。 皆と同じように。 俺のことは死んだと思え!」
「な、何を言う?! やっと心を開いてくれたかと思ったら、なぜ!? なぜお前はそんなことを言う!」 「さっきも言った筈だ。 俺にはやらねばならぬことがある。 冬磨、お前はお前の幸せを守れ!」
”唯一の友であるお前の幸せのためにも、俺は・・・”
彼は心の中で、そう付け加えた。
「・・・それが、 それがお前の願いか?」
声を振り絞って冬磨が聞いた。
「俺にお前との思い出も残してはならぬ・・・と?」 「そうだ。今宵限りで」
冷たく突き放すような声で侍は言った。
「冬磨の思いは受け取った。 だが、俺達はやはり今日会うべきではなかった」 |