「なあ、あきのすけ・・・ お父上のためだけじゃない。 俺はいつもお前が自慢の友だった。 まあ、お前は知らんだろうけどな。 勉学は常に上位、 剣の腕前はその辺の大人よりも数段に上手で、 何よりもお前のその精神が俺は好きだった。 だから、他のヤツがどんな目で見ようとも、 俺はお前が自慢で、親友だと思っていた」
そこへ替わりの酒を持ってきた、冬磨の妻=ゆうが付け加えた。
「そうですわ。 いつも旦那様は、 私にあきのすけ様のお話を自慢げにされて・・・ あの髪色と目は、何かの意味を持っているに違いないって。 そして・・・ いつの日か、また会える日を心待ちにしていると」
「冬磨・・・」
侍は今初めて、 どれだけ冬磨が自分のことを思っていてくれたかを知り、 胸が熱くなった。
「あきのすけ、俺は安心したよ」 「?」 「お前の心にも、やっと大事なものが宿ったらしい。 それがお前を変えたんだな? 昔のお前ならお父上の墓のことなど、 どうでも良かった筈だ」
それは違う、と侍は思った。
冬磨に、 あそこで冬磨に会わなければ、 墓参りなど思いもつきもしなかった。 お前の言葉が、父上の墓に自分を向かわせたのだ。
昔から冬磨には、そんな力があるのだ。 自分の心を解きほぐす何かが。 けれど、あの頃の俺は、 それを受け入れることができなかったのだ。
「俺には・・・ 俺には守るべきものがある。 取り返さなければならぬものがある。 ただそのためだけに、 俺は生きているといっても過言ではない。 ここへ来たのも本当は・・・」
そう言いかけて、侍は口を噤(つぐ)んだ。
「分かっているよ、俺は・・・ ただの墓参りじゃない、ってことくらいは・・・な。 だから、今宵が最初で最後の、 お前と交わす酒だと思ったんだよ・・・」
そういうと、向かい合った冬磨は手を伸ばし、侍に酌をする。
その時ふと、侍は子供の頃よくやられた、 クシャクシャと彼の頭を撫でる冬磨をなぜか思い出した。
それは昔から持つ冬磨の癖だった。 嫌がる自分を捕まえては、 冗談交じりに髪をクシャクシャにされた。 あの頃は人とは違う色の、 この髪に触られるのがイヤで溜まらなかったというのに。 随分と俺はそれに腹を立てていたものだ。
そんな忘れかけていた在りし日の記憶が蘇った。。 |