懐古編(仮)

  第十八話

「なあ、あきのすけ・・・
 お父上のためだけじゃない。
 俺はいつもお前が自慢の友だった。
 まあ、お前は知らんだろうけどな。
 勉学は常に上位、
 剣の腕前はその辺の大人よりも数段に上手で、
 何よりもお前のその精神が俺は好きだった。
 だから、他のヤツがどんな目で見ようとも、
 俺はお前が自慢で、親友だと思っていた」

そこへ替わりの酒を持ってきた、冬磨の妻=ゆうが付け加えた。

「そうですわ。
 いつも旦那様は、
 私にあきのすけ様のお話を自慢げにされて・・・
 あの髪色と目は、何かの意味を持っているに違いないって。
 そして・・・
 いつの日か、また会える日を心待ちにしていると」

「冬磨・・・」

侍は今初めて、
どれだけ冬磨が自分のことを思っていてくれたかを知り、
胸が熱くなった。

「あきのすけ、俺は安心したよ」
「?」
「お前の心にも、やっと大事なものが宿ったらしい。
 それがお前を変えたんだな?
 昔のお前ならお父上の墓のことなど、
 どうでも良かった筈だ」

それは違う、と侍は思った。

冬磨に、
あそこで冬磨に会わなければ、
墓参りなど思いもつきもしなかった。
お前の言葉が、父上の墓に自分を向かわせたのだ。

昔から冬磨には、そんな力があるのだ。
自分の心を解きほぐす何かが。
けれど、あの頃の俺は、
それを受け入れることができなかったのだ。

「俺には・・・
 俺には守るべきものがある。
 取り返さなければならぬものがある。
 ただそのためだけに、
 俺は生きているといっても過言ではない。
 ここへ来たのも本当は・・・」

そう言いかけて、侍は口を噤(つぐ)んだ。

「分かっているよ、俺は・・・
 ただの墓参りじゃない、ってことくらいは・・・な。
 だから、今宵が最初で最後の、
 お前と交わす酒だと思ったんだよ・・・」

そういうと、向かい合った冬磨は手を伸ばし、侍に酌をする。

その時ふと、侍は子供の頃よくやられた、
クシャクシャと彼の頭を撫でる冬磨をなぜか思い出した。

それは昔から持つ冬磨の癖だった。
嫌がる自分を捕まえては、
冗談交じりに髪をクシャクシャにされた。
あの頃は人とは違う色の、
この髪に触られるのがイヤで溜まらなかったというのに。
随分と俺はそれに腹を立てていたものだ。

そんな忘れかけていた在りし日の記憶が蘇った。。




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