座敷からは笑い声が響いていた。
「お前がなぁ?」 「俺こそ驚いた」 「くそっ!それにしても残念だ。 屋敷へ来たら、驚かそうと思ってたんだが」
冬磨の悔しそうな顔が侍の笑いを誘った。
「で、墓参りは済ませてきたか?」 「ああ」 「お前のお父上には俺も世話になった」
「冬磨、一つ頼み事があるんだが・・・」 「ん?なんだ?」 「俺は、もうこの町へは二度と脚を運ぶことはないかもしれぬ。 だから、気が向いた時でもいい。 父上の墓をたまに見てはくれぬか? 礼は、今ここで出来ることがあれば、何でもすると約束する」
そう言った侍は冬磨に向かって、頭を下げた。
「はあ〜? 何言ってんだ?お前?? 何だよ、それは・・・」 「墓を移すことは無理だ。 だがしかし、あのような無縁仏のような墓になっては、 さすがに俺も・・・」 「ちょっ?!ちょっと待て! あきのすけ!よーく聞け!! 俺は長い間藩主に呼ばれ、 先日ここに役を終えて戻って来たばかりだ。 だからといって、 それまでお父上の墓を放置してた訳じゃないぞ?」 「え・・・?」 「いや、だから! そういう訳で留守をしていてな。 ちょいと荒れ果てていたかもしれぬ。 その点は謝る」 「冬磨?なにを言って・・・?」 「世話になったお父上殿の墓は、 言われずとも俺がちゃんと守るということだ」 「冬磨・・・」 「だから、案ずるな。それに礼なども必要ない」
その言葉を聞き、侍は冬磨の顔をジッと見つめた。
” 俺は・・・ 俺は一体これまで、冬磨の何を見ていたんだ? 父上のためにそこまでしてくれてるとは・・・”
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 冬磨はそんな彼の思いに応えるかのように笑った。 |