懐古編(仮)

  第十七話

座敷からは笑い声が響いていた。

「お前がなぁ?」
「俺こそ驚いた」
「くそっ!それにしても残念だ。
 屋敷へ来たら、驚かそうと思ってたんだが」

冬磨の悔しそうな顔が侍の笑いを誘った。

「で、墓参りは済ませてきたか?」
「ああ」
「お前のお父上には俺も世話になった」

「冬磨、一つ頼み事があるんだが・・・」
「ん?なんだ?」
「俺は、もうこの町へは二度と脚を運ぶことはないかもしれぬ。
 だから、気が向いた時でもいい。
 父上の墓をたまに見てはくれぬか?
 礼は、今ここで出来ることがあれば、何でもすると約束する」

そう言った侍は冬磨に向かって、頭を下げた。

「はあ〜?
 何言ってんだ?お前??
 何だよ、それは・・・」
「墓を移すことは無理だ。
 だがしかし、あのような無縁仏のような墓になっては、
 さすがに俺も・・・」
「ちょっ?!ちょっと待て!
 あきのすけ!よーく聞け!!
 俺は長い間藩主に呼ばれ、
 先日ここに役を終えて戻って来たばかりだ。
 だからといって、
 それまでお父上の墓を放置してた訳じゃないぞ?」
「え・・・?」
「いや、だから!
 そういう訳で留守をしていてな。
 ちょいと荒れ果てていたかもしれぬ。
 その点は謝る」
「冬磨?なにを言って・・・?」
「世話になったお父上殿の墓は、
 言われずとも俺がちゃんと守るということだ」
「冬磨・・・」
「だから、案ずるな。それに礼なども必要ない」

その言葉を聞き、侍は冬磨の顔をジッと見つめた。

” 俺は・・・
 俺は一体これまで、冬磨の何を見ていたんだ?
 父上のためにそこまでしてくれてるとは・・・”

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
冬磨はそんな彼の思いに応えるかのように笑った。




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