懐古編(仮)

  第十六話

侍は女達から少し離れた後ろを歩く。

女は気を遣って、何度か彼に声を掛けようと、
時折後ろを振り向く。
だが、彼はなるだけ顔を合わさないよう、
目線は下に落として歩く。

「ここですわ」

その声に、ハッとして顔を上げると、
そこは見覚えのある門の前だった。

「ここが?」
「ええ。どうもありがとうございました」

驚く彼に気づかず、
女はちょっとお待ち下さいましと言い残し、
使用人と中へと入って行った。

”そうか・・・”
彼は苦笑した。

「何っ?
 それはさぞかし怖い思いをしただろう。
 その方には俺からも礼を言わねばならん!」

その大きな声と共に、女と慌ただしく戸口に出て来た男は、
冬磨だった。

「あっ?!」
侍の姿を見て冬磨も驚く。

「済まない。
 どうやら時間よりも早く着いてしまったようだ」

「え?ええっ?!!!
 ちょっと待て?お前が?・・・なんでお前が??」

冬磨は少し混乱してるようだった。

「えーと・・・
 はっ!そうか!
 いやはや、これは世話になったようだ。
 いいから上がれ、あきのすけ!」
「あの・・・?旦那様?」
「昼間話しただろう?今日の客人だよ」
「えええええっ?!」

紹介された彼は、そこで初めて人目を忍ぶ菅笠を取った。
すると、黄金色の束ねた髪がするりとその背にかかる。
色白で端正な顔立ちの彼の顔が露わになった。

しかしながら、予想に反してその容貌に女は少しも驚かず、
快く冬磨と共に屋敷へと迎え入れてくれたのだった。




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