侍は女達から少し離れた後ろを歩く。
女は気を遣って、何度か彼に声を掛けようと、 時折後ろを振り向く。 だが、彼はなるだけ顔を合わさないよう、 目線は下に落として歩く。
「ここですわ」
その声に、ハッとして顔を上げると、 そこは見覚えのある門の前だった。
「ここが?」 「ええ。どうもありがとうございました」
驚く彼に気づかず、 女はちょっとお待ち下さいましと言い残し、 使用人と中へと入って行った。
”そうか・・・” 彼は苦笑した。
「何っ? それはさぞかし怖い思いをしただろう。 その方には俺からも礼を言わねばならん!」
その大きな声と共に、女と慌ただしく戸口に出て来た男は、 冬磨だった。
「あっ?!」 侍の姿を見て冬磨も驚く。
「済まない。 どうやら時間よりも早く着いてしまったようだ」
「え?ええっ?!!! ちょっと待て?お前が?・・・なんでお前が??」
冬磨は少し混乱してるようだった。
「えーと・・・ はっ!そうか! いやはや、これは世話になったようだ。 いいから上がれ、あきのすけ!」 「あの・・・?旦那様?」 「昼間話しただろう?今日の客人だよ」 「えええええっ?!」
紹介された彼は、そこで初めて人目を忍ぶ菅笠を取った。 すると、黄金色の束ねた髪がするりとその背にかかる。 色白で端正な顔立ちの彼の顔が露わになった。
しかしながら、予想に反してその容貌に女は少しも驚かず、 快く冬磨と共に屋敷へと迎え入れてくれたのだった。 |