懐古編(仮)

  第十五話

「あ・・・」
女はヘナヘナとその場にへたり込む。

「大丈夫か?」
侍はまた菅笠を深く被り直すと、屈んで女に声を掛けた。

「ええ、ちょっと、き、緊張で・・・」
「奥方様っ!大丈夫でございますかっ?」

使用人らしき者が慌てて駆け寄る。

「・・・ちょっと待つがいい」

侍は寺へと戻り、しばらくすると水を手に女の元へ戻った。

「さあ、これを飲んで一息吐かれよ」
「あ、ありがとうございます・・・」

ゴクゴクと女の喉が動き、水を飲み干す。

「どうだ?」
「お陰様で何とか・・・」
「怪我はないか?」
「ええ。何ともございません。」

そういうと、
ゆっくりと女は使用人の手を借りて立ち上がり、

「本当にあなた様が通り掛かって下さらねば、
 どうなっていたことやら。
 危ないところをありがとうございました」

と深々と頭を下げた。

「もう薄暗い。良ければ家まで送って差し上げるが・・・」
「あ、でも・・・」
「奥方様、この方のおっしゃる通りになさっては?
 この辺は変な輩も多いことですしね。
 もう先ほどみたいな怖い思いは勘弁して下さいまし」
「そう・・・、
 お前がそうも言うなら・・・
 では、お言葉に甘えて、お願いしてもよろしいでしょうか?」




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