懐古編(仮)

  第十四話

「いい加減にして下さい!」

女の叫ぶ声が背中越しに聞こえた。
振り向くと、かなり離れた後ろ手の方で、
女と二人組の男が言い争いをしている。

侍は気になり、さりげなくそちらの方へと歩いて行く。

「言いがかりはおよしになって下さい!」
「何を、このアマッ!大人しく出せってんだッ!」

見ると、二人組の片方が女の腕を掴み、
もう片方の男が肩を押さえて痛がってる。

「イテェよぉ〜!アニキィ〜!イテテテテッ!!
 骨が折れたかもしれねぇよぅ〜!!」
「おうおうおうおう!
 サッサと出しやがれッ!
 黙って行こうたぁ、いい度胸だぜッ!」

男達はチンピラ風であり、どう見ても言いかがりであった。
女の後ろには使用人らしき者が、
事の成り行きにオロオロしている。

侍はスッと女と男達の間に入った。

「どうした?」
「あっ?!どうかお助け下さいませ!
 この者達が、通りすがりに肩が当たったとかで、
 妙な言いがかりを・・・」
「てやんでぃッ!言いがかりとはどういうこってい?!
 お前さんがよそ見をして、
 コイツに当たって来たんじゃねぇか!
 見ろよ、コイツ。可哀想にこんなに痛がってよぉー!
 つべこべ言わずに、サッサと治療代を寄こせってんだ!!」

「・・・なるほど」

「な、何でぃ?何でぃ?!
 あんたにゃー関係ねぇだろ?
 お侍さんはすっこんでなッ!」

侍はスッと手を上げ、菅笠を気持ち上げた。
その瞬間、男達の目にオレンジ色の瞳が映った。

それを見た男達はすくみ上がり、
「げっ?!」
「ア、アニキィ〜?
 こ、こいつ、なんかヤヴァそうですぜ?」
「うむむむむ・・・」
「なんか変な色の目だし〜〜!」
と、ボソボソと何やら話し込む。

更に侍は、ジロリと男達を上から無表情に睨み付け、

「お主達は、それほどまでに治療代が欲しいのか?
 ならば、もっと金を取る手助けをしてやろう・・・」

と低く言い放ち、刀に手を掛ける。

「ヒィッ?!
 い、いえいえいえいえっ?!!!
 滅相もございませんっ!
 げ、元気です!元気だよな?お前!!」

アニキと呼ばれた男は、
弟分と思われる男の肩をバシバシと叩く。

「あっ?!
 は、はいはいはい!!!
 ぜーんぜんっ!平気っ!
 平気だったりしますです!」

「では、行け・・・!」

「あー、そうですねっ!
 そうします、そうします。
 じゃっ、お嬢様お気を付けてぇ〜〜!」

と男達は青ざめた表情のまま、その場を一目散に逃げ出した。




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