「いい加減にして下さい!」
女の叫ぶ声が背中越しに聞こえた。 振り向くと、かなり離れた後ろ手の方で、 女と二人組の男が言い争いをしている。
侍は気になり、さりげなくそちらの方へと歩いて行く。
「言いがかりはおよしになって下さい!」 「何を、このアマッ!大人しく出せってんだッ!」
見ると、二人組の片方が女の腕を掴み、 もう片方の男が肩を押さえて痛がってる。
「イテェよぉ〜!アニキィ〜!イテテテテッ!! 骨が折れたかもしれねぇよぅ〜!!」 「おうおうおうおう! サッサと出しやがれッ! 黙って行こうたぁ、いい度胸だぜッ!」
男達はチンピラ風であり、どう見ても言いかがりであった。 女の後ろには使用人らしき者が、 事の成り行きにオロオロしている。
侍はスッと女と男達の間に入った。
「どうした?」 「あっ?!どうかお助け下さいませ! この者達が、通りすがりに肩が当たったとかで、 妙な言いがかりを・・・」 「てやんでぃッ!言いがかりとはどういうこってい?! お前さんがよそ見をして、 コイツに当たって来たんじゃねぇか! 見ろよ、コイツ。可哀想にこんなに痛がってよぉー! つべこべ言わずに、サッサと治療代を寄こせってんだ!!」
「・・・なるほど」
「な、何でぃ?何でぃ?! あんたにゃー関係ねぇだろ? お侍さんはすっこんでなッ!」
侍はスッと手を上げ、菅笠を気持ち上げた。 その瞬間、男達の目にオレンジ色の瞳が映った。
それを見た男達はすくみ上がり、 「げっ?!」 「ア、アニキィ〜? こ、こいつ、なんかヤヴァそうですぜ?」 「うむむむむ・・・」 「なんか変な色の目だし〜〜!」 と、ボソボソと何やら話し込む。
更に侍は、ジロリと男達を上から無表情に睨み付け、
「お主達は、それほどまでに治療代が欲しいのか? ならば、もっと金を取る手助けをしてやろう・・・」
と低く言い放ち、刀に手を掛ける。
「ヒィッ?! い、いえいえいえいえっ?!!! 滅相もございませんっ! げ、元気です!元気だよな?お前!!」
アニキと呼ばれた男は、 弟分と思われる男の肩をバシバシと叩く。
「あっ?! は、はいはいはい!!! ぜーんぜんっ!平気っ! 平気だったりしますです!」
「では、行け・・・!」
「あー、そうですねっ! そうします、そうします。 じゃっ、お嬢様お気を付けてぇ〜〜!」
と男達は青ざめた表情のまま、その場を一目散に逃げ出した。 |