その後。 侍は茶屋からそう遠くない、 父と義母の墓のある寺へと脚を運ぶ。
これもまた、何か自分にとって必要があることかもしれない、 そう考えたからであった。
墓前のある場所まで来ると、屋敷同様荒れた墓がそこにあった。 誰も訪れる者がないのだろう。 苔が生え、雑草に囲まれた墓は殺風景で、 かつ、物哀しさも漂わせていた。
侍は黙々と丁寧に墓周りを掃除し、 花を手向け、手を合わせる。 その思いはどれほどのものか、 様子からは窺い知ることはできない。
かなり長い間墓の前で手を合わせていた侍は、 徐に立ち上がる。 そして、深く菅笠を被ると、 後ろに束ねた長い髪はその中にしまった。 これで多少は目立たないだろう。
夕焼けの空にカラスがカァカァと鳴き、 一羽二羽と次々にねぐらへと帰って行く。 冬磨との約束には、刻二つほどまだ時間があった。 侍はまた屋敷の方へ戻ろうかと考えた。
とその時である。 |